ワーキングメモリーが低い子の特徴とよくある困りごと
公開日:2024年11月12日
このコラムでは、ワーキングメモリー(WMI)のスコアが低い子どもの特徴について解説し、学校生活や日常生活でよく見られる困りごとを解説します。
また、遊びを通じてワーキングメモリーを鍛える方法や、家庭での支援方法についても詳しく解説します
ワーキングメモリー(WMI)について
ここでは、ワーキングメモリーが低い子どもの特徴や関連する問題について、詳しく解説します。ワーキングメモリーが低い子どもの特徴を理解することができれば、お子さんへの適切な支援方法を見つける手助けになるでしょう。
ワーキングメモリー(WMI)とは何か?
ワーキングメモリー(Working Memory Index, WMI)は、脳が情報を一時的に保持し、それを活用して問題を解決したり、行動に移す能力を示します。
短期記憶と似ていますが、ただ記憶するだけでなく、記憶した情報をすぐに使いこなすことが求められる点で異なります。例えば、授業で聞いた情報を活かして問題を解いたり、文章を読んでその内容をすぐに理解する力が含まれます。
WMIが高いほど、複雑な応用問題や多くのタスクをこなす能力が高いことが多く、学校生活や日常生活で役立つ力です。
処理速度(PSI)との違い
処理速度(Processing Speed Index, PSI)は、情報を視覚的または聴覚的に捉え、それを迅速に処理する能力のことを指します。
ワーキングメモリー(WMI)と処理速度(PSI)は関連性がありますが、異なる要素です。
ワーキングメモリー(WMI)は、情報を保持して活用する力に重きを置いており、処理速度(PSI)は情報を認識してスムーズに処理する力を示しています。
例えば、処理速度が速い子は、視覚的なパズルや反応速度が求められるタスクを得意とし、作業を効率的に進められることが多いです。しかし、ワーキングメモリー(WMI)が低い場合、覚えた情報を保持して活用するのが難しいため、タスクが複雑になると対応しにくくなります。
処理速度(PSI)についてもっと知りたい方はこちら
⇒ WISCで処理速度(PSI)だけ低い子どもの特徴とサポート方法
ワーキングメモリーのスコアが低い子の特徴
ワーキングメモリーのスコアが低い子は、いくつかの特徴を示すことが多いです。
以下に代表的な例を挙げます。
指示を覚えられない
ワーキングメモリーのスコアが低い子は、一度に複数の指示を受けると、その内容を忘れたり、混乱したりすることがあります。
特に「まず○○をして、それから△△をしてね」というような段階的な指示に弱い傾向がみられます。
読み書きや計算に時間がかかる
ワーキングメモリーのスコアが低い子は、読解問題や計算問題において、必要な情報を一度に保持するのが難しいため、問題を解くのに時間がかかることがあります。
忘れ物が多い
ワーキングメモリーのスコアが低い子は、学校の持ち物や宿題の内容を覚えておくのが難しく、結果として忘れ物が多くなることがあります。
日常会話の中での混乱
ワーキングメモリーのスコアが低いと、相手の話した内容をすぐに忘れてしまうため、会話の中で話の流れについていけなくなったり、何度も聞き返したりすることがあります。
ワーキングメモリーと発達障害の関係性
ワーキングメモリーの低さは、特定の発達障害と関連している場合があります。
特に注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは、ワーキングメモリーが弱い傾向があるとされており、学校での課題や日常生活でのタスクが困難になることがあります。
例えば、ADHDの子どもは集中力の持続が難しいだけでなく、ワーキングメモリーが低いことで作業の手順を覚えられず、途中で気が散りやすいといった困難が生じることがあります。
また、ASDの子どもも情報を保持し処理する際に困難を感じる場合が多く、対人関係や学業に影響が出ることがあります。
学校生活でよくある困りごと
ワーキングメモリーのスコアが低い子どもは、学校生活のさまざまな場面で困難を感じることが多くあります。特に、授業中の先生からの指示の理解や課題に取り組む際に、他の子どもと同じようなペースで進めるのが難しい場合があります。
ここでは、学校生活でよく見られる困りごとを具体的に解説し、どのような問題に直面しやすいかを考察します。
1. 先生の話を聞いてないと思われてしまう
ワーキングメモリーが低い子どもは、一度に多くの情報を保持し続けるのが難しいため、先生からの口頭での指示を聞いたときに、順番に従うことが困難です。
例えば、「まず国語のノートを開いて、その後に教科書を読みましょう」という指示を受けたとしても、後半の指示を忘れてしまうことが多いです。その結果、指示に従っていないように見えてしまい、先生から「話を聞いていない子」と誤解されることがあります。
このようなケースでは、口頭の指示が長くなるほど、全体の内容を覚えきれず行動に移すことが難しくなるため、子どもにとってストレスになりやすいです。
2. 問題を解く時間がかかってしまう
ワーキングメモリーが低い子は、長い文章を読んでいる間に最初の内容を忘れてしまうことが多いです。そのため、文章を読み直したり、内容を確認したりする必要があり、課題を終えるのに他の子どもより時間がかかることがよくあります。
このような状況では、読む速度や理解力が低いと見なされることもありますが、実際にはワーキングメモリーの影響であることが多いのです。
3. 板書をすることが苦手
授業中の板書を写しながら先生の説明を聞くことは、ワーキングメモリーに大きな負担をかけます。
ワーキングメモリーが低い子どもは、先生の話を聞きながらノートに書き写すといった同時作業をすることが難しく、結果としてどちらかが中途半端になってしまうことがあります。先生の話を聞いて内容を理解しようとすると板書が抜けがちになり、逆に板書に集中すると、話の内容が頭に入らないというジレンマに陥ることがあります。
4. 頻繁に忘れ物をしてしまう
ワーキングメモリーが低い子どもは、必要な持ち物や次の授業に必要な教材を記憶しておくのが難しく、忘れ物を頻繁にしてしまうことがあります。忘れ物が多いと、子ども自身が「また忘れてしまった」と自己嫌悪に陥ることがあり、自信を失う原因にもつながります。
5. ケアレスミスが多くなってしまう
ワーキングメモリーが低い子どもは、計算の途中で繰り上がりの数や手順を忘れてしまい、結果的にケアレスミスが増えることが多いです。
特に複雑な計算問題では、計算手順や数の持ち越しが多くなるため、ミスが起こりやすくなります。こうしたミスは、計算能力自体の不足ではなく、ワーキングメモリーの影響であることが多く見られます。
日常生活でよくある困りごと
ワーキングメモリーが低い子どもは、学校生活だけでなく日常生活でもいくつかの困難を抱えやすくなります。特に、予定を守ったり、物事を段取りよく進めたりする際に、うまく対応できない場面が増えることがあります。
ここでは、日常生活でよく見られる困りごとを具体的に解説します。
1. 予定や約束を忘れてしまうことが多い
ワーキングメモリーが低い子どもは、一度聞いた予定や約束を覚えておくことが難しく、忘れてしまうことがよくあります。例えば、家族との約束や友達との遊びの約束を忘れ、当日になって驚かれることが多いです。これにより、周囲から「約束を守れない子」という印象を与えてしまうこともありますが、実際には覚えておく能力が十分に機能していない場合が多いのです。
2. 計画的な行動が苦手で、部屋やカバンの中を片付けられない
計画的に行動するためには、まず目標を設定し、その達成に必要な手順を記憶して実行する力が求められます。しかし、ワーキングメモリーが低い子どもにとっては、このプロセスが難しく、部屋やカバンの整理整頓が苦手になりがちです。
片付けを始めても、興味が他のことに移ると、途中で何をしていたか分からなくなることがあります。例えば、片付けの最中に失くしたと思っていたマンガが見つかると、それを読み始めてしまう、などがあります。
そして、読み終わった後には片付けのことをすっかり忘れ、そのまま放置してしまうことも少なくありません。このように、一度中断すると整理が進まない状態が続きやすいのです。
3. おつかいなどで頼まれた物を買い忘れてしまう
ワーキングメモリーが低い子は、覚えた情報をすぐに忘れてしまうことがあるため、おつかいなどで複数の物を頼まれた際に、いくつかを買い忘れることがよくあります。
例えば、「牛乳とパンと卵を買ってきてね」と頼まれても、途中で頼まれた内容を忘れてしまい、「何を買うんだっけ?」と混乱してしまうことが多いです。このような状況が続くと、周囲から「人の話を聞いていない、忘れっぽい」と思われてしまうこともあります。
4. 友達との会話についていけないことがある
ワーキングメモリーが低い子どもは、友達との会話の中で話題が移り変わると、途中の内容を忘れてしまうことがあります。これにより、会話の流れに乗り遅れたり、何を話していたのか分からなくなったりして、疎外感を感じることがあります。このような場面では、話題を追うのが難しくなり、会話に付いていけなくなるため、友達との自然なコミュニケーションが取りにくくなることがあります。
ワーキングメモリーを向上させる4つの方法
ワーキングメモリーを鍛えるためには、楽しみながら行える「遊び」が効果的です。遊びの中で自然にワーキングメモリーが活性化されると、記憶力や注意力も同時に向上する可能性があります。
ここでは、子どもが楽しみながらワーキングメモリーを強化できる遊びを4つ紹介します。
1. 神経衰弱(暗記力の強化)
トランプカードを使って行う「神経衰弱」は、カードの位置と内容を記憶する遊びです。表向きに並べたカードを一度だけ見せてから裏返し、同じ数字やマークのカードをペアで引き当てるゲームです。
子どもは、一度見たカードの場所を記憶しておく必要があるため、ワーキングメモリーが効果的に刺激されます。また、最初は少ない枚数から始め、徐々にカードの数を増やしていくと、記憶容量と集中力が少しずつ鍛えられます。
神経衰弱を行うことで、記憶した情報を素早く活用する力も強化され、学習面でも役立つ能力を向上させることができます。
2. 絵描き歌(デュアルタスク)
「絵描き歌」は、歌詞の指示に従いながら絵を描く遊びです。例えば、「まるをかいて、そこに小さな三角をくっつけて」といった指示が歌の中で登場し、それを聞きながら同時に描いていきます。
この遊びでは、聞き取った情報を記憶し、それに基づいて次の行動をとる必要があるため、デュアルタスクとしてのワーキングメモリーが鍛えられます。特に、指示が次々と出てくるため、耳で聞いた情報を頭の中で素早く処理して、手を動かす能力が養われます。
絵描き歌を楽しみながら行うことで、集中力や順序立てて行動する力も高めることができるため、板書をノートに書き写すなどの学習活動にも役立つでしょう。
3. 後出しじゃんけん(視覚情報の強化)
「後出しじゃんけん」は、普通のじゃんけんと違って、相手の手を見てから後出しで勝つ手を出さなければなりません。例えば、相手が「パー」を出したら、こちらは「チョキ」をすばやく出す必要があります。
この遊びは、一瞬の視覚情報を記憶し、それに基づいて瞬時に行動を選ぶ能力を鍛えます。後出しじゃんけんは、短期的に覚えた情報を瞬時に使いこなす必要があるため、ワーキングメモリーの訓練に最適です。
また、リズムに合わせて行うと、さらに難易度が増すため、注意力と反射神経も養うことができます。これは学校での勉強やスポーツにおいても、視覚情報を素早く処理する能力が向上することが期待されます。
4. 友達との外遊び(複雑なルールの理解)
友達との外遊び、特に鬼ごっこやドッジボールのような複雑なルールがある遊びは、ワーキングメモリーを向上させるために非常に効果的です。
こうした遊びでは、ルールを覚えながら瞬時に判断する必要があるため、記憶した情報を即座に使うことが求められます。また、ゲーム中に他の子どもたちの動きを把握し、それに応じて自分の行動を変えることで、集中力も鍛えられます。
友達と遊びながら自然にルールを守る練習を積むことで、コミュニケーション能力や協調性も向上し、日常生活や学習活動に役立つスキルを養うことができます。
家庭で行う4つの支援方法
ワーキングメモリーが低い子どもをサポートするためには、家庭での支援が欠かせません。日常生活の中で適切な環境を整えることで、ワーキングメモリーの低い子どもの支援が可能になります。
ここでは、家庭で取り入れやすい支援方法を4つご紹介します。
1. 学校に共有し、配慮をしてもらう
家庭から学校へ子どもの特性を共有することで、学校生活における適切な支援や配慮を受けることができます。
ワーキングメモリーが低い子どもは、複数の指示を一度に伝えられると混乱してしまうことがあるため、授業中の配慮をお願いすることが重要です。
例えば、指示を短く具体的に分けてもらったり、視覚的なサポートを活用してもらうなどの工夫をしてもらうことで、子どもがよりスムーズに活動できるようになります。
先生と協力することで、子ども自身が安心して学校生活を送れるようになるでしょう。
2. 十分な睡眠時間を確保する
ワーキングメモリーは、脳がしっかりと休息をとっている時に最大限の力を発揮します。
成長期の子どもには、十分な睡眠が不可欠です。睡眠不足が続くと、ワーキングメモリーがさらに低下し、集中力も減少します。
家庭では、子どもが早寝早起きを習慣化できるようにサポートし、決まった時間に眠るリズムを整えてあげることが重要です。週末でも規則的な睡眠スケジュールを維持することで、日中の集中力や記憶力が向上しやすくなります。
3. メモをとる癖をつけさせる
ワーキングメモリーが低い子どもにとって、覚えたことを紙に書き出すことは非常に有効です。
メモをとる癖をつけることで、覚えるべきことを視覚的に確認でき、忘れ物や約束のミスが減少します。
例えば、次の日の持ち物や宿題の内容をメモに書いておくよう促したり、買い物リストを一緒に作成することで、日常的にメモを活用する習慣が身に付きます。
最初は親がサポートしながらメモを一緒に作り、徐々に子どもが自主的にできるように指導していくと良いでしょう。
4. ゲームやスマホの使用を制限する
長時間のゲームやスマホの使用は、ワーキングメモリーの負担となることがあります。
特にスマホは視覚や聴覚を刺激し、注意力が散漫になりやすく、夜更かしの原因にもなるため、使用時間を制限することが効果的です。
家庭では、特定の時間にのみ使用を許可するルールを作り、使用しない時間には、ワーキングメモリーを使う別の活動(読書、外遊び、手先を使う遊びなど)を推奨すると良いでしょう。
このような取り組みの中で、スマホに頼らない過ごし方が身に付き、自然とワーキングメモリーを鍛える機会が増えていきます。
まとめ
お子さんがワーキングメモリーの数値が低いという結果が出た場合、必要な情報を一時的に保持して使うのが苦手になり、複数の手順を覚えながら進める課題や、状況に応じた素早い判断が難しくなることが多いです。しかし、他の認知能力が高い場合もあり、周囲からは「できるはず」と思われて誤解されることがあります。
こうした子どもへの支援では、特性を正しく理解し、無理のないペースで取り組める環境を整えることが重要です。
保護者や教師が協力してサポートすることで、本人の強みを伸ばしながら、学習面の負担を減らすことができます。
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もっと知りたい方はこちら
⇒【発達障害コース】について
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