高校入試の小論文の丸わかり完全攻略ガイド!|模範解答例・解説付き

公開日:2024年6月4日

「高校受験の小論文はどうやって書けばいいの?」
今回のコラムでは、そんな不安や疑問を解決するために、小論文の基礎知識、書き方、注意点、対策方法を徹底解説し、小論文の過去問の模範解答例や解説もご紹介します!
小論文をマスターするために、正しい書き方やルールを知っておきましょう。

小論文の基礎知識

中学生の場合、小論文に書き慣れていない生徒が多く、どうしても作文寄りの記述になりがちです。
しかし、小論文と作文は書き方が大きく異なるので、まずは正しい知識と理解が必要となります。
まずは、小論文の基礎知識について解説していきます。

小論文とは?

小論文とは、出題されたテーマについて自分の意見や考えを書き、「なぜそのような意見・考えになるのか?」という理由や根拠を論理的に説明し、読み手が納得できる内容にする文章のことを指します。つまり、自分の意見が「客観的に見てしっかり筋が通っていること」を文章で示していくことが重要ポイントとなります。

小論文と作文との違い

小論文と作文は似ているように感じてしまいますが、記述の方向性書き手の立ち位置が全く異なります。
作文は、与えられたテーマについて、他者の意見や感情ではなく、実体験を交えながら自分自身の考えや感じたことを素直に書き表すことが求められます。

例えば、

  • 私は〜だと思います。
  • 私は〜だと感じます。

といった感じで、自分の気持ちや感想を前面に出して記述します。
一方で、小論文の場合は「自分はどう思ったか?」という書き方ではなく、客観的な事実に基づく論理性を示さなければいけません。

例えば、

  • このグラフが示すとおり〜であることが考えられます
  • ○○という事実から〜ということが分かります

といった感じで、自分の主張が客観的なデータや事実から導かれた意見であることを書かなければいけません。
つまり、作文は「主観的な立場で書く文章」であるのに対し、小論文は「客観的な立場で書く文章」という大きな違いがあります。

小論文で評価されるポイント

小論文の試験で最も評価されるポイントは、「論理性」「説得力」です。
つまり、問題で聞かれている意図を正確に理解し、それに対する自分の意見が「如何に説得力があり、論理的な裏付けがあるか?」という点がポイントとなります。
この説得力を示すためには、具体的かつ客観的な論拠が必要となります。

  • どのような論拠を用いるか?
  • どのような論理構成を組み立てるか?

といった点では知識思考力も必要となり、そのような点についても評価のポイントとなります。

また、小論文の試験では文章の書き方(書式、誤字・脱字、表現能力、文章の構成、など)についても評価されています。小論文・作文の試験は基本的に減点方式であることが多いので、この様な点にもしっかりとした対策が必要です。

小論文の書き方|5つのSTEP

それでは、小論文の書き方について詳しく解説していきます。
小論文は書き慣れていけば誰でも上手になっていくので、下記の手順を身につけ演習を繰り返していくことが上達の近道です。

高校入試での小論文の試験は、制限時間60分程度400〜800字程度の文章を書くのが一般的です。
さほど短すぎる時間でもありませんが、ゆっくり考えるほどの余裕はありません。
ですから、試行錯誤しながら書き進めるのではなく、あらかじめ文章の方向性を定めてから一気に書き切るといった形になります。
(※下記は制限時間60分を想定した所要時間を記載しています。)

STEP ①|出題意図を読み取り、結論を決める【所要時間:5分】

まず始めに、問題文をしっかり読みましょう。
問われている主旨を取り違えてしまうと、いくら良い記述ができたとしても大きく減点されてしまうことがあります。また、途中から話が逸れてしまい、記述内容にねじれが生じることもよくあります。
ですから、「何を聞かれているのか?」「何について書けば良いのか?」を正確に把握することから始めましょう。
また、小論文の試験ではグラフや資料を読み取り記述する問題も多いです。これらを素早く読んで、情報を正確に理解することも重要となります。

問題の意図をしっかりと理解したら、次に自分の意見を決めます。意見=結論と考えてください。
まず、出題されたテーマに対して、賛成・反対のどちらの立場に立って書いていくかを決めましょう。どちらが正解ということもないのですが、強いて言うなら、自分の本心に従って決めた方が良いです。その方が、後の文章も書き進めやすくなります。

STEP ②|必要な情報、アイデア、論理的展開を考える【所要時間:5〜10分】

自分の意見が決まったら、次に、その意見を裏付ける根拠や事例を考えましょう。
文字数制限もあるので、あれこれ沢山のことを書くことはできないのですが、この時点では思いつくだけ書き出していき、最後にその中から説得力が高いと思われるものを優先的に選んで絞り込みます。

書く順番を矢印などで印を付けながら、大まかな文章の構成も考えていきます。これから書く文章の設計図を作るイメージです。
この文章構成がある程度固まったら、骨格ができあがっているのと同じです。あとは書く時に肉付けをしていけば良いのです。

ですから、このSTEP②にはある程度の時間を割く価値があります。
時間制限もあるので、「早く書き始めたい!」と逸る気持ちもわかりますが、落ち着いてしっかり設計図を考えてから書いた方が、バランスの取れた良い小論文になることが多いです。「急がば回れ」を意識してください。

STEP ③|文章全体の構成を決める【所要時間:5分】

STEP③では、STEP②で考えた設計図をもとにして、最終的な文章全体の構成を決めます。
高校受験の小論文は、400〜800字程度の文字数になることが多く、指定された文字数の最低8割(目標は9割以上)は埋めなければいけません。

小論文の基本構成は、「序論」「本論」「結論」の3部構成になります。
それぞれの文字数の割合は、「序論:本論:結論=1:7:2」程度のバランスが目安になります。
それぞれの文章をバランス良く配分できるように、原稿用紙にあらかじめ目印をつけておきましょう。

1. 序論

序論は、全体の記述のスタート地点になります。
「序論」を記述する割合は、文章全体の10〜15%程度を目安にしましょう。序論では、聞かれているテーマについての「自分の意見や考え方の方向性」を示します。

2.

本論は、小論文全体の中で「主役」の部分にあたります。
「本論」を記述する割合は、文章全体の65〜75%程度を目安にしましょう。
本論では、序論で示した「自分の意見や主張」に対して、「なぜそのように思ったのか?」を具体的な事例や根拠を示しながら、その理由を論理的に説明していきます。

3.

結論は、小論文の最後を締めくくる文章です。
「結論」が占める割合は、文章全体の15〜20%程度を目安にしましょう。結論では、序論で示した「自分の意見や考え方」を、結論としてもう一度記述します。序論と全く同じ文章にならないよう、文章表現を変えたりして工夫しましょう。

STEP ④|文章を書き始める【所要時間:30分】

STEP③までの準備が整ったら、早速、解答用紙に書き始めていきましょう。
一旦文章を書き始めたら、設計図をもとに一気に書き切ることがポイントです。
書きながら内容を考えたり、「やっぱりこうしよう、ああしよう…」と内容を変更しようとすると、文章全体に一貫性がなくなったり、矛盾が生じたりしてしまいます。そうなると、説得力が無くなり大幅な減点につながることがあるので要注意です。
また、書きながら迷ってしまうと修正や書き直しが増えてしまうので、時間を大きくロスしてしまいます。そうなると、時間が足りないと焦ってしまい、余計に記述内容が悪くなってしまいます。

書く内容の方向性はあらかじめ定めておき、記述する段階では誤字脱字や文章表現、文法、句読点などを含めた読みやすい文章の作成(表面的な部分)に意識を働かせていくようにしましょう。

STEP ⑤|最後の見直し【所要時間:5〜10分】

小論文を書き終えたら、一度深呼吸して気持ちを落ち着け、必ず見直しをしましょう。
この時点では残り時間も僅かなので、大きな内容変更や書き直しはできません。ですから、誤字・脱字や文法などの間違い探しをしましょう。自分が採点者になったつもりで見直しをすれば、小さなミスも気付きやすくなります。

小論文を書く時の3つの注意点

次に、小論文を書く時に知っておきたい注意点をご紹介します。
小論文を書く上では決まった記述の仕方があり、これらを間違って理解していると、繰り返し間違えてしまい、複数箇所が減点されてしまいます。
基本的なことですが、しっかり確認しておきましょう。

1. 原稿用紙の使い方の注意点

まずは原稿用紙の使い方をしっかり理解しておきましょう。

イトルや氏名を書く場所

タイトルや氏名を記入する欄が指定されていれば、必ずそこに書くようにしましょう。
特に指定されていなければ、タイトルは1行目に上から2〜3マス空けて書き、氏名は2行目に下の1〜2マス空けて書きます。苗字と名前の間は1マス空けておくことが基本的な書式です。

段落を変える場合

一番最初の書き始めの文章は、冒頭の1マスを空けることが基本的な書式です。
文章の段落を変える場合も、冒頭の1マスを空けてから書きましょう。

句読点、「」、数字を使う場合

句読点(、。)やカギ括弧(「」)を書く時は、必ず1マス使いましょう。
句読点や閉じ括弧(」)は行の冒頭に書いてはいけません。そうなってしまう場合は、一つ前の行の最後のマスに文字と一緒に書くことが基本です。

2. 指定文字数の注意点

高校受験の小論文では、必ず文字数制限があります。
一般的な指定文字数は400〜800字程度になりますが、最低8割以上(目標は9割以上)を埋めることが必要です。
文字数が少なすぎると大きな減点対象となります。また、逆に指定文字数をオーバーしてしまうと、「規定を満たしていない」という理由で失格(=0点)になる場合もあるので注意が必要です。

3. 言葉遣いや文法の注意点

小論文を書く上で、正しい文章表現や文法表現にも注意しましょう。
小論文の試験は、書かれている内容自体の評価と同時に、生徒の「国語力」「文章作成能力」の評価もしています。

誤字脱字、ら抜き表現、口語表現、略語はNG

誤字や脱字は最も多い記述ミスです。
漢字が分からない場合は、分かる言葉に言い換えて書くようにしましょう。

「口語表現」のNG例

×ちょっと → ○少し
×色んな → ○様々な
×〜みたいな → ○〜のような
×だから〜 → ○したがって〜
×あと〜 → ○また〜

「ら抜き表現」のNG例

×見れる → ○見られる
×来れる → ○来られる
×食べれる → ○食べられる
×考えれる → ○考えられる

「略語」のNG例

×コンビニ → ○コンビニエンスストア
×バイト → ○アルバイト
×部活 → ○部活動
×スマホ → ○スマートフォン

主語と述語を正しく書く

文章の構成として、「主語」と「述語」を明確にすることが大切です。
特に、主語が抜けてしまっている文章は、読み手にとってわかりにくい文章となることがあります。
文章を書き始める前に、まず「主語は何になるのか?」を考えてから、その後の文章を続けてみましょう。そうすれば、文章自体も整い、簡潔にまとまりやすくなります。

文末は「だ・である」に統一

文章の最後の言葉として、「〜だ」「〜である」という書式で統一しましょう。
小論文の場合、「〜です」「〜ます」という書式は適切ではありません。
正しい書式で統一すると、全体的な一貫性や完成度などを印象づけることができます。

一つの文章を長すぎないようにする

一つの文章が長すぎると、読み手にとってわかりにくい文章となってしまいます。
一つの文章は長くても60文字程度(2〜3行以内)に収めることが一つの目安になります。
長すぎる文章は適度な箇所で文章を「。」で区切り、2つの文章に分けて書くようにしましょう。この様な場合、「しかし、」「また、」「つまり、」などの接続詞を上手く使えば、長い文章も分けやすくなります。

小論文の対策方法4選

次に、小論文の記述能力を上げるための具体策について紹介します。
小論文の力は短期間で身に付くものではありません。何度も演習を繰り返し、書き慣れていくことが大切です。

1. 過去問を活用する

過去問を利用して小論文の演習を繰り返すことは、最も効果的な勉強方法です。
沢山の過去問演習を繰り返すことで、様々なテーマについて触れることができますし、高校ごとの出題傾向をつかめることがあります。
よく知らないテーマであれば、インターネットで調べてみたり、学校の先生や塾・家庭教師の先生に質問することで、新たな知識を広げることができます。
また、過去問には必ず模範解答が付いていますので、これらを読むことでテーマについての知識や、文章の書き方、論拠を示す方法なども学習できます。
小論文の試験では時事問題社会問題について扱われることが多く、それらの知識の豊富さが大きく影響しますので、なるべく沢山のテーマについて広く演習をこなしてみましょう。

2. 先生に添削してもらう

そもそも、自分で書いた文章を自分で評価することは難しいです。
ですから、過去問などで小論文を書いてみたら、必ず学校の先生や塾・家庭教師の先生などに添削をお願いしましょう。
人それぞれ切り口や考え方が違うため、小論文は決まった答えのない問題とも言えます。
「どのような切り口があるのか?」「どのような具体例をあげれば説得力が増すか?」
といった新しいアイデアを得るためにも、第三者の客観的な視点や意見がとても役に立ちます。

3. 時事問題や社会問題の知識を増やす

小論文の試験では、時事問題や社会問題が扱われることが非常に多いです。
また、高校受験では、小論文の試験と合わせて面接試験を実施することが多く、この面接試験においても時事問題や社会問題について質問されることが多いです。

時事問題や社会問題の知識は、一朝一夕で身に付くものではありません。日頃からニュースに関心を持ち、知識を深めていくことが大切です。
インターネットのニュース記事やテレビのニュース番組を見ながら、問題の概要やその問題に対する意見や考え方を参考にしてみましょう。

参照:NHK「面接・試験対策に役立つ 時事問題マスター」

4. 制限時間内に書き上げる練習をする

小論文試験の制限時間は、指定文字数にもよりますが、だいたい50〜60分程度になることが多いです。
「制限時間内に書かなければいけない」というプレッシャーがあると、焦ってしまい上手く書き上げられないこともよくあります。
ですから、小論文の演習をする時は、必ず時間を計りながら取り組むようにしましょう。
時間を計りながら何度も繰り返し練習していくと、終了時間が迫ってきても焦らなくなっていき、また、時間配分や記述のスピードも上達していきます。常に、試験本番を想定した環境で練習するようにしましょう。

小論文の試験問題例|模範解答例と解説

ここまで小論文の概要、書き方、注意点、対策方法について解説しました。
ただ、「実際にどんな問題が出されていて、どのように記述すれば良いのか?」が分からないと実感できない方も多いでしょう。
そこで、東京都立高校の入試で実際に出題された小論文の問題をもとに、模範解答例と解説をご紹介します。(※こちらはあくまでも一例になります)

都立三田高校(制限時間:50分、合計字数:500〜600字)

問題
次の棒グラフは東京都の種類別世帯割合の推移を、折れ線グラフは一世帯当たりの人員の推移を表したものです。この二つのグラフにおける変化の特徴と関係、及びその背景について、あなたの考えを100字以上150字以内で述べなさい。
模範解答例
種類別世帯割合の推移を見ると、一人暮らしの世帯が増加傾向にあり、夫婦と子供の世帯が減少傾向にあることが分かる。これに伴って、一世帯当たりの人員が減少していることが分かる。
この変化の背景には、少子高齢化や晩婚化・未婚化の進行などが考えられます。
解説
この問題の場合、指定文字数が100〜150字と少ないため、簡潔に書くことが求められます。(今回の模範解答例は121字です。)

上記グラフでは2種類のグラフがあり、それぞれについての①特徴、②関係、③背景を書くことが問題で求められています。

①特徴
種類別割合の棒グラフで顕著な変化が見受けられるのは、「夫婦と子供の世帯」と「一人暮らしの世帯」です。
したがって、棒グラフの特徴は、
・「夫婦と子供の世帯」は減少傾向
・「一人暮らしの世帯」は増加傾向
となります。
※「その他の世帯」も減少していますが、具体的にどのような世帯を指しているのかが分からないので、この点は触れない方が良いです。

一世帯当たりの人員の推移の折れ線グラフの方は、一見して減少傾向であることが分かります。
したがって、折れ線グラフの特徴は、
・一世帯当たりの人員は減少傾向
となります。

②関係
「夫婦と子供の世帯」が減少し、「一人暮らしの世帯」が増加しているということは、当然、「一世帯当たりの人員」は減ることになります。
ですから、「これに伴って、」と表現することでその関係性を示すことができます。

③背景
この問題では、「③背景」について論理的な考察ができているかがポイントです。
「①特徴」で示した推移の社会的な背景として考えられることは、「少子高齢化」「晩婚化」「未婚化」が挙げられます。これらの関連用語を使うことで、論理的な裏付けを示すことができ、さらに、少ない文字数で文章をまとめることができます。

上記3点を押さえて、指定文字数内に収めることがポイントです。
「グラフの正確な読み取り」「その背景を考える上での基礎知識」「それらを簡潔にまとめる文章作成能力」がバランス良く求められている、非常に優れた問題だと思います。
問題
世界各国は、それぞれ独自の伝統文化を持っています。日本の伝統文化も、長い年月を経て育まれ、日本独特の文化として受け継がれてきました。
そのような日本の伝統文化の中で、あなたが未来に伝えていきたいと思うものを一つ挙げ、それを取り上げた理由を400字以上450字以内で述べなさい。
模範解答例
私が未来に伝えていきたいと思う日本の伝統文化は「茶道」である。その理由として三つ挙げる。

まず、茶道は日本の礼儀作法やおもてなしの精神を学べる場である。茶道を通じて、相手を思いやる心や感謝の気持ちを身につけることができる。おもてなしの精神は、国際化が進む現代社会でも重要だ。
次に、茶道は日本の四季や自然との調和を体現している。季節ごとの道具や茶室の造りには、日本の四季を感じさせる工夫がされている。春には桜をモチーフにした茶碗、夏には涼しげなガラスの茶器などが使われ、季節感を楽しむことができる。
最後に、茶道は心の安定をもたらす修練の場でもある。茶を点てる過程で心を静め、集中力を養うことで、日常生活のストレス軽減にもつながる。現代社会では多くの人々がストレスに悩まされているが、茶道の静かな環境で心を落ち着けることができる。

これらの点から、茶道は現代社会においても有用な伝統文化であり、未来に伝えていく価値があると考える。
解説
分かりやすいように序論・本論・結論の間に空白行を入れています。(今回の模範解答例は411字です。)

この問題の場合は、日本の伝統文化として何を取り上げるかがポイントです。「日本独特の伝統文化」と指定されているので、他国でも存在するような題材は避けましょう。
今回の模範解答では「茶道」を選びましたが、他の題材としては「和食」「日本庭園」「着物」「折り紙」などでも良いでしょう。
本論で取り上げた理由を述べなければいけないので、十分な知識のある題材を取り上げましょう。

本論では、取り上げた理由に説得力を持たせるため、客観的な事実を具体的に挙げ、それらがもたらす価値や有用性を論理的に示すことが大切です。作文ではないので、「私にとって茶道は〜だと思います」や「茶道を学んだことで、私は〜な経験を得ました」などの主観的な記述はNGです。(※冒頭1行目に「思う」と書いていますが、これは問題文でも使用されている文章を引用しているだけなのでOKです。)

参照:東京都立三田高校ホームページ

都立国分寺高校(制限時間:50分、合計字数:450字程度)

次の文章を読んで、問題に答えなさい。
※こんな発想がどこから来たのかについてはていねいな考察が必要と思われますが、明治維新前夜の黒船の来航に象徴されるような植民地化の恐れに対し、物量で圧倒的に勝る欧米列強に対抗するために精神主義も動員してことにあたろうという空気が広がり、「資源もなく、普通にやったら負ける日本人が国際競争に勝つには、長時間労働をはじめとするヒトの踏ん張りしかない」という発想がしみついたということはあるかもしれません。
その延長と言うべきか、世界の主要国を相手にした無謀な戦争、と言われてきた第二次世界大戦でも、圧倒的な兵力や物量の不足をカバーするために精神主義が動員され、また、戦後も、1970年代の二度の※オイルショックによる経済の落ち込みに対し、社員たちは会社に協力して賃上げを我慢し、長時間労働に耐えて時間当たり賃金を下げることで乗り切ろうとします。
これらが成功体験として浸透し、日本の働き手たちは1980年代の急激な円高による輸出産業の落ち込みも長時間労働による時間当たり賃金の抑制を受け入れることで乗り切ろうとし、やがて過労死の続発へとつながっていくと考えると、納得がいくような気がします。私たちの社会では、精神主義と長時間労働が危機を乗り越えるキーワードとしてしみつき、これが経済的な成功体験と結びつき、「物量の差で考えたら勝てるはずがない欧米列強」に対抗する際の心のよりどころとして機能し続けてきたのではないでしょうか。
問題は、このような長時間労働が、本当にいまの日本に有益か、ということです。
実はいま、こうした日本の働き方は、いくつもの問題を生んでいます。日本の会社で長時間労働が可能だったのは、女性たちが家庭内の孤独に耐え、家事・育児を一手に引き受けてきたことが大きかったと思います。背景には、介護や保育などの社会福祉を家庭内で女性が無償で引き受けることで社会保障費を切り詰めるという政策がありました。最近は、外食産業で従業員が一人で店を切り回す「ワンオペ」にちなんで、一人で育児を背負うことが「ワンオペ育児」などと呼ばれて話題になっていますが、家庭内の孤独な育児に黙って耐える女性たちは、日本の社会の長時間労働の陰の立役者だったのです。
こうした事態は、女性の経済的自立にはマイナスでしたし、女性の人権から考えてもいろいろ問題がありました。とは言え、人口が多く、家庭内に女性をとどめておく余裕があった社会条件下でなら、それでもなんとかなりました。ただ、いまのように少子高齢化による人手不足が会社経営の壁になりつつあるとき、女性たちが働きに出られないような長時間労働の常態化は企業にとっても大きなマイナスになりつつあります。
加えて、産業構造が変わり、正社員でも必ずしも安定雇用が続くとは言えなくなった中で、男性も含め、転職できるスキルを身に着けることは、働き手が生活を支えていくための重要なポイントになってもいます。それなのに、今のような長時間労働を続けていて、はたして新しいスキルを身に着ける時間を確保できるでしょうか。
仕事(ワーク)と生活(ライフ)の両立を意味する「ワークライフバランス」という言葉がありますが、それはいまの日本社会の条件の下では、「慈善」のためではなく、経済合理的に必須の条件となりつつあるのです。

( 『これを知らずに働けますか?』 竹信 三恵子 ちくまプリマー新書 )

※ こんな発想・・・「長時間労働はいけないといいますが、会社は慈善事業じゃないんです。長時間働かないと日本の会社はもたないのでは?」という学生からの質問。
※ オイルショック・・・社会情勢に伴い、原油の減産や値上げが行われ、世界経済に大きな影響を及ぼしたこと。

問題
あなたが将来もし自分で会社をつくるとしたら、社員のためにどのような労働環
境を用意しますか。
あなたの考えを書き、その理由を300字程度で述べなさい。
その際、「人権」「長時間労働」「家庭」のいずれかの言葉を一つ以上使用すること。
模範解答例
もし将来自分で会社を作るとしたら、社員のためにワークライフバランスを重視した労働環境を提供したい。

具体的には、長時間労働を避けるために業務の効率化を図り、定時退社を推奨する。また、在宅勤務やフレックスタイム制度を導入し、社員が家庭との両立を図れるように支援する。これらにより、社員は家庭の役割を果たしやすくなり、仕事と生活のバランスが取りやすくなるだろう。
さらに、休暇制度を充実させ、社員がリフレッシュできる時間を確保することも重要である。人権を尊重し、働きやすい環境を整えることで、社員の満足度が高まり、結果的に企業の生産性も向上すると考える。

従業員一人ひとりが生き生きと働ける環境を作ることが、企業の持続的な成長につながると確信している。
解説
今回の模範解答では、問題文で指定された「人権」「長時間労働」「家庭」のいずれかの言葉を使い、指定された字数で明確かつ簡潔に答えています。
字数は「300字程度」となっているのですが、この様な場合は1割程度の誤差で収めることが適切です。(今回の模範解答例は321字です。)

問題文章の内容と、指定されている「人権」「長時間労働」「家庭」という言葉から連想すると、自分の意見を「長時間労働を支持する方向性」で書くことは避けた方が良いでしょう。
また、「定時退社」「在宅勤務」「フレックスタイム制度」などの関連用語を使用することで、関連知識があることをアピールすることができ、さらに字数を短縮することができます。
問題文が「もし自分で会社をつくるとしたら、」となっているので、記述が作文のようになりがちですが、「自分は〜だと思う」「自分なら〜に感じるからだ」といった主観的な意見はNGです。あくまでも客観的な視点により論理的に理由を説明していくことがポイントです。
下のグラフは『日本国勢図会 2022/23』による、2021 年の世帯種別の食料費の内訳です。
これについて、後の問題に答えなさい。

※ 二人以上(勤労者)世帯とは、家計を同一にする二人以上の世帯のうち、一人以上が勤労者
(勤め人)である世帯のこと。
※ 単身(女)(男)世帯には、学生の単身者は含まない。

問題
食料費の内訳を比較すると、どのような特徴があるといえますか。また、そのよ
うな特徴がみられる理由について、あなたの考えを150字程度で述べなさい。
模範解答例
どの世帯も調理食料費の割合が高い。これは、現代の忙しい生活スタイルにより、家庭内での調理時間を短縮できる調理済み食品を利用する傾向が強まっていることが考えられる。
また、単身男性は食事準備の手間を省くために外食を選ぶ傾向が強く、一方で、単身女性は健康や食事のバランスを重視して、自炊や調理食品を選ぶ傾向が強くなることが考えられる。
解説
この問題は文字数150字と少ないので、序論・本論・結論などは組まず、簡潔に書くことが必要です。

このグラフから読み取れる特徴としては、
①いずれの世帯も、「調理済み食料費」の割合が高い
②単身世帯は、性別によって「外食費」の割合が大きく異なる
③単身(男)の「外食費」の割合が目立って高い
④単身(男)の「素材となる食料費」の割合が目立って低い
⑤単身(男)の「飲料・酒類費」の割合が比較的高い
が挙げられます。

今回の模範解答例では、上記①②③の特徴と理由を簡潔に盛り込みました。(今回の模範解答例は164字です。)
④については、①③により自然とそうなるので触れていません。また、⑤については、①②③の特徴と比べるとインパクトが少ないので、取り上げていません。

指定文字数内に収めることが難しい場合は、上記5点のいずれか一つに絞って書いても良いでしょう。

この問題は、グラフから読み取れる特徴が複数ある中で、文字数が150字程度と少なく、どの点を選択して記述するか?という「判断力」が必要となります。
また、少ない文字数の中で端的に特徴と理由を記述しなければならないので、高度な「文章作成能力」も必要となります。
これらの能力をバランス良く評価できる非常に高度で優れた問題と言えます。

参照:東京都立国分寺高校ホームページ
参照:東京都教育委員会「令和5年度東京都立高等学校入学者選抜における推薦に基づく選抜で実施した小論文・作文、実技検査のテーマ等一覧」

まとめ

社会に出て仕事をするようになると様々な資料やレポートを作成することになりますが、これらは全て小論文の考え方に近しいものです。ですから小論文の勉強は、受験勉強のためだけではなく、将来にとっても非常に役立つ知識になるでしょう。

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